書評

書き出し小説

1.今日の一言と本のサマリー

国境の長いトンネルを抜けると雪国であった。誰もが知っている、川端康成の「雪国」。この書き出しを見ると、その情景が浮かび、これから始まるストーリーにワクワクします。まさに名文。

しかし、現実問題として文章を書こうと思うと、この書き出しが非常に難しいもの。どこかに面白く、引き込まれる書き出しができるコツは落ちていないものか。そんなジレンマから誕生したのかはさだかではないですが、『書き出し小説』はネットサイト、デイリーポータルZで募集された3万作以上の中から厳選された、書き出しだけを紹介した作品です。

糸井重里さんが、「だめだ!思い出し割りの質量がはんぱない!」という本作。ご紹介していきます。

2.岡崎の考察

書き出し小説では、特にルールのない自由部門と、毎回出されるテーマに沿った規定部門があります。今日はその中でも特に秀逸だと感じた5作品の紹介と、勝手に解説したり、その先を想像する形で書評とさせていただきます。

1、「あ、肉まんを考えた人か」そう思った時にはもう、滝つぼが眼前に迫っていた。
肉まんって誰が考えたんでしょう?調べてみたい気もします。なぜこの人物は「肉まんを考えた人」について考えていたのか?いや、調べたところで出てくる気もしない。つまり肉まんを考えた人ってきっと創作、いや、むしろ騙されているのかもしれない。
しかし問題は眼前の滝つぼ。騙されていることを証明する時間もない。というかそんな状況で肉まんについて考えてちゃいけない。この先にいったいどんな展開をしていくのか。非常に気になる書き出しです。

2、彼女なら、きっと本体よりもポケットの方を欲しがるだろう。そんな人間だ。
おそらく彼女に恋をしているのでしょう。そうでなければ、本体よりもポケットを欲しがる人間などというフェチシズムに気づけるはずがありません。恋は盲目といいますが、もしかしたらストーカーレベルの恋かもしれない。そんな人間に恋してしまった主人公ってどんな人なのでしょうか?
人間観察に優れており、一見明るく、しかし実は根暗で1人の時にPCで今日出会った人の情報を淡々とまとめる。そんな人物なのではないでしょう。本体よりもポケットを欲しがることに気付ける人に出会ったら気をつけましょう。

3、倒産寸前で、もう何も売るものが無い我が社。今日の株主総会で、取締役5人をアイドルグループとして売り出すことが決まった。
なんと素晴らしい人選!株主総会は全員総立ちで5人のデビューが決まった。当然結果である。誰もが納得し、5人の門出を祝う。彼らのこれからの活躍はまさに伝説、レジェンドとなるのだ!しかしそんな盛り上がった会場の片隅で1人虚な目をする男性。そう!実は取締役は6人いたのだ!ここから彼の復讐劇は始まっていく。

4、鬼達の労働時間は平均15時間という過酷なものだった
俺らにも人権を!なんで鬼の方が地獄なんだ!ゆとり教育、人権保護、体罰禁止。優遇される地獄落ちしたものたち。虐げられる鬼。労働環境の改善を求めた鬼たちの戦いが始まった。

5、昨日までは大好きな街だった。
今日はクリスマスイブ。街は輝き、カップルは幸せな顔をしている。俺を除いて。本当は幸せな今日を迎えるはずだったのに。人生勝ち組の俺。勝ち続けてきた俺がこんな1日を迎えるなんて信じられない…と、毎年思う。

勝手に想像して書き加えたり、解説してみました。(笑)そう、この本は勝手に想像して笑える本なのです。肩の力抜いて、ただ笑いたい。そんな時におすすめの一冊でした

3.商品の紹介