書評

具体と抽象 世界が変わって見える知性のしくみ

1.今日の一言と紹介する本

以前に京都大学の先生が出した論文ですが、他の国に比べて早期にコロナウイルスが流行った国は致死率が非常に低い。特に、なぜ日本においてこれほど致死率が低いのか?

その原因を推察すると、変異して致死性が上がる前に日本では流行っていて、すでに日本は集団免疫に入っている可能性があるというもの。

事実かどうかは分かりませんが、そうだとするとこれからが明るくなりますね。

怖い記事の方が多いので、前向きな記事にも触れてフラットに情報を取れるようにすると良いのではないでしょうか。

それでは今日の書評『具体と抽象 世界が変わって見える知性のしくみ』をしていきましょう!

2.本のサマリー

世の中は分かりやすい方向に流れている…書店には、分かりやすいといったタイトルの本が並び、テレビ番組も日本語字幕に加えて、万人に分かりやすい番組が増え、政治家も分かりやすく説明することが求められています。

分かりやすさの象徴が具体性です。

本でもテレビ番組でも講演でもネットの記事でも、具体的で分かりやすい表現が求められる世の中。

しかしあえて、本書は具体性という意味での分かりやすさに対して疑問を投げかけています。なぜならば、人間の知性のほとんどは抽象化によって成立しているから。

経済が成熟期の今、きたるべき衰退期に備えて必要とされる能力、それが抽象概念を扱うということ。

抽象化とは不連続な変化を起こすために必要な知的能力。なぜ人は永遠に噛み合わない議論をしてしまうのか?分かりやすさの弊害とは?抽象化することの意味や価値とは?

世界が変わって見える知性の仕組みを紐解く一冊。

3.ポイント4点

抽象化を制するものは思考を制す

抽象化とは一言で表現すれば、枝葉を切り捨てて未来を見ることといえます。文字通り、特徴を抽出するということです。要は、様々な特徴や属性を持つ現実の事象の中から、他のものと共通の特徴を抜き出して、ひとまとめにして扱うということです。

最も理想的なのは、具体レベルと抽象レベルを階層化させ、つながった目標になっていることです

結局重要なのは、抽象化と具体化をセットで考えること

4.岡崎の考察

思考を整理していく事は仕事においても、プライベートにおいてもとても大事なことでしょう。その中でも抽象的、具体的、といった対立思考は物事を考えるベースになります。そこでまず、抽象的であるとはどういうことなのかから考察していきましょう。

抽象化とは、複数のものをまとめて、1つのものとして扱うという事
人間の知能の基本中の基本は、言葉と数を操れることです。言葉と数を生み出すのに必要なのが抽象化です。
例えばリンゴが3個、犬が3匹、松の木が3本、なども厳密に言えば一つ一つのリンゴは特徴も違い、全く同じものではありません。しかし、リンゴとして抽象的に扱うことで数にまとめることができます。
人が10人集まっているというのも、一人ひとり異なる人ですから、田中さん、山田さん、佐藤さん…などと具体的に指し示すこともできますが、まとめて「人」と抽象的に扱うことで人数を数えることができるわけです。

議論が噛み合わない原因は抽象化度のレベルの違いにあった
・顧客の言うことを聞いていては良いものができないという意見に対し、顧客の声が新製品開発の全ての出発点であるともいえます。
・リーダーたるもの言うことがブレてはいけないという意見に対し、リーダーは臨機応変に対応すべしとも言います。
・長年の伝統を守るべしに対して、変化しないものは生き残れないと思います。

このような議論は日々様々な場所で昔から行われている、いわば永遠の議論ともいえます。こういった意見が対立する原因は、抽象度のレベルが合っていないことが原因として挙げられます。

例えば、リーダーたるもの言うことがブレてはいけないというのも抽象度が高い概念、例えば企業理念などでは当然ですがブレてはいけません。しかし抽象度が低い、具体的な場面、例えば仕事で発生した致命的な問題などでは朝令暮改で柔軟に対応する必要があるでしょう。抽象度が上がれば上がるほど、本質的な課題に迫っていくので、そう簡単に変化はしないものなのです。

抽象的な概念を実行に移すため必要なものは何か?
例えば、大学生にあなたの目標はなんですか?と聞いたら、次のような答えが返ってきたとします。

①世界中の人々を幸せにしたい。
②日本の子供に勉強の喜びを教えたい。
③理科の学習用のスマホアプリを作りたい。
④プログラミングの教室に毎週火曜日、半年間通って資格を取りたい。

志が高いと思われる順番に並べると、① ② ③ ④の順番になります。逆に実行可能性が高いと思える順番に並べると、④ ③ ② ①という順番になるでしょう。当然ですが具体性が高いものほど、実行がしやすくなるわけです。

だから、最も理想的なのは、具体レベルと抽象レベルを階層化させ、つながった目標になっていることです。何かプロジェクトを立ち上げるときには、抽象的な概念(目的)と具体的な行動計画をセットで考えるようにすると良いでしょう。

論理的思考を高めるために、具体と抽象という概念を整理しておくのはとても価値があることだと思います。思考を整理したいと思う方にお勧めの1冊でした。

5.気になるワード

分かりやすいとは、多数派に支持されることを意味します。
分かりやすいの象徴が具体性です。
分かりやすいが求められるのは、社会や組織が成熟期に入ってからが顕著です。このような段階では、連続的な変化は起こせても、破壊的にそれまでの弊害をリセットするようなことを行うのが極めて難しくなります。
そんな時代に必要な能力が抽象概念を扱うという、不連続な変化を起こすために必要な知的能力です。
人間の知性のほとんどが抽象化によって成立している
本書のテーマは具体と抽象です。
私たちの周りの世界は、突き詰めれば全てがこれら2つの対立概念から成り立っています。
具体=分かりやすい、抽象=分かりにくいというのが一般的に認知されているこれらの概念の印象です。具体=善、抽象=悪という印象はとんでもなく大きな誤解です。
本書の目的は、この抽象という言葉に対して正当な評価を与え、市民権を取り戻すことです。
抽象化を制するものは思考を制す
具体的な表現は、解釈の自由度が低い、つまり人による解釈の違いがほとんどない。抽象的な表現は、解釈の自由度が高く、人によって解釈が大きく異なる。
解釈の自由度が高いという事は、応用がことになり、これが抽象の最大の特徴
言葉や数を自由に操れる、それによって知識を蓄積し、科学のように役立つ体系的な理論として構築し、再現可能にすることで様々な道具を発展させて活用できる。このようなことが動物と人間を異なる存在にしていると言って良いでしょう。
その中でも言葉や数を操れることが、人間の知能の基本中の基本
言葉と数を生み出すのに必要なのが、複数のものをまとめて、1つのものとして扱うという抽象化です
相対的にどう見るかで具体か抽象かが決まる
人間の知能の凄さを最も象徴的に表すのが抽象化です
抽象化とは一言で表現すれば、枝葉を切り捨てて未来を見ることといえます。文字通り、特徴を抽出するということです。要は、様々な特徴や属性を持つ現実の事象の中から、他のものと共通の特徴を抜き出して、ひとまとめにして扱うということです。
抽象化とは、このようなデフォルメです。特徴あるものを大げさに表現する代わりに、その他の特徴は一切無視してしまう大胆さが必要といえます。
抽象化の最大のメリットとは何でしょうか?それは、複数のものを共通の特徴を持ってグルーピングして同じとみなすことで、1つの事象における学びを他の場面でも適用することが可能になることです。
抽象化とは複数の事象の間に法則を見つけるパターン認識の能力。抽象化なくして科学の発展はなく、抽象化なくして人類の発展もなかった。
例え話の上手い人とは、具体→抽象→具体という往復運動による翻訳にたけている人の事
うまい例え話の条件
①例えの対象が誰にでも分かりやすい身近で具体的なテーマになっている
②説明しようとしている対象とテーマとの共通点が抽象化され、過不足なく表現されている
手段と目的の関係も、全て相対的なもの
世の永遠の議論の大部分は、どのレベルの話をしているのかという視点が抜け落ちたままで進むため、永遠に噛み合わないことが多いのです。
変えるべきことと変えざるべきことの線引きを抽象度に応じて切り分けることで論点が明確になります。
抽象度が上がれば上がるほど、本質的な課題に迫っていくので、そう簡単に変化はしない
自由度の高さは、具体派の人から見れば、だからよくわからなくて困るという否定的な解釈になり、抽象派の人から見れば、だから想像力をかき立てて、自分なりの味を出せると肯定的な解釈になります。
様々な先人の名言は、抽象度が高い表現ばかりです。
抽象度や自由度という視点で仕事を考えられる人なのかどうか、それを頼む側と頼まれる側の方法で十分認識して仕事の依頼をしているかどうかで仕事の成否が決まる
注意すべきは、上流の仕事(抽象レベル)から下流の仕事(具体レベル)へ移行していくに伴い、仕事をスムーズに進めるために必要な観点が変わっていくという事
意思決定は、多数の人間が関われば関わるほど無難になっていく
下流の仕事は多くの人が関わった方がレベルが上がり、早く安くなりますが、上流の仕事の質は、むしろ関わった人の量に反比例します。人が関われば関わるほど品質が下がり、凡庸になっていくのが上流の仕事といえます。
いちど固定化された抽象度の高い知識(ルールや法則等)は固定観念となって人間の前に立ちはだかり、むしろそれに合わない現実の方が間違いで、後付けだったはずの理論やルールに現実を合わせようとするのは完全な本末転倒といえます。
最も理想的なのは、具体レベルと抽象レベルを階層化させ、つながった目標になっていることです
抽象度の高い概念は、見える人にしか見えません。抽象化というのは、残念ながらわかる人にしかわからないのです
実は具体的すぎて分かりにくいということもある
特に経験した世界が狭ければ狭いほど、外の世界のことがわからないにもかかわらず、自分の置かれた状況が特殊であると考える傾向があります。
考えると行動ができなくなるのも抽象の世界がもたらした弊害
結局重要なのは、抽象化と具体化をセットで考えること

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